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「住環境と行政機関」

「住環境と行政機関」

(琉球新報 共に考える住宅デザインVol.143掲載)
「住環境と行政機関」

 今年3月、現在の場所に事務所を移した頃、事務所前の下水の鉄板のフタは、10年以上経過していたのか今にも腐り落ちそうなほどであった。ここは通学路にもなっているようで、夕方には小学生がスリルを求めてか、フタの上を歩いたりしており、かなり危険な場所であった。
大人2人が乗ると鉄板が折れそうなほど錆付いており、また留め金が付いてないので突風でいつ飛んでいってもおかしくないような状態であった。また見た目もあまりよくないので、自費でなんとか補修しようかとも一時は考えていたのだが、大家さん曰く、公共のものなのであまりいじれないだろうとのこと。どうしたものかと日々悶々としていたところ、以前、身内のなかに行政相談委員をやっていた者がおり、暮らしに関する相談には役所に問い合わせたほうがいいと話していたことを思い出し、さっそく地元の浦添市役所へ電話してみた。電話口では、「市民相談室」というところの担当者が丁寧に話を聞いてくれ、「とりあえず調査いたします」と返事を受けたのだが、フタの取り付けの工事をするにしても、いつごろまでにとは約束してもらえず、個人的にほんとに来てくれるだろうかと少し不安であった。
しかし連絡を入れて次の日、下水道課の職員2人が来てくれた。「・・・こりゃ、危ない!」。その2人も、このフタが現在までそのままであったことに驚き、なんとかしなればという顔つきであるのが見てとれた。その後、市で年間契約しているという業者の担当者が何度か現場を訪れ、大きく口をあけた下水口の寸法を測ったり、その腐った鉄板の上に人が乗らないようにと、工事用のポールを立ててくれた。
そして、連絡してから2週間後。現場を度々見に来ていた業者の人が、現場の寸法に合わせた鉄筋コンクリート製の、想像以上に“ごっつい”フタを、トラックに積んで来て設置してくれた。設計事務所前であり、また広い道路にも面しているということもあるため、個人的な希望としては、丈夫な鉄の網を二重にして、間に綿を敷き、そこに植物が根をつけられるようにしてほしいと頼んではいたのだが、それは叶わなかったようだ。花あふれる道路沿いとなったはずであり残念ではあるが、公共のものであるから、そう簡単に個人の意見を受け入れることには、やはり限界がある。ただ、現在では、(おそらくトラックが乗っても大丈夫なほど)しっかりつくられたフタに満足しており、素早い対応をしてくれた市役所と業者の皆さんに非常に感謝している。
あとから調べてみてわかったことだが、たいていの役所には市民相談室というような窓口があり、暮らしに関するあらゆる相談に応じているらしく、例えば浦添市役所のホームページには、「浦添市民が市民として心豊かな日常生活を営む上において相談を必要とする方に対し、その相談を受け解決促進を図り、安定した市民生活の増進に寄与することを目的に設置されています」と、市民相談室について紹介されている。相談には、素朴な暮らしの疑問から、深刻な法律相談に至るまで、その筋の専門家により幅広く対応してくれる。また、最近更に徹底しなければならないといわれている「個人情報保護」にも配慮しているという。思えば役所、特に地方公共団体とは、市民の参加と監視によって運営されるという原則にもあるように、最大の市民サービスをする行政機関であるわけであるから当然のことといえば当然であるが、いつでも相談できるところがあるだけで安心感があり、日々そのために働いている関係者に感謝しなければならない。
住宅づくりの際にも、多くの行政機関の専門家が関わっており、また関わらなければ、つくれるものもつくれない。専門家に頼りすぎるのも考えものだが、専門家に相談を持ちかけ、誰でもが解決の道をいつでも一緒に考えられるような体制の維持改善に努めることが、今後更に必要となってくるのかもしれない。(T)

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