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「疾走する上海」

「疾走する上海」

「疾走する上海」

 人口1700万人といわれる中国最大の経済都市、租界時代の面影の残る国際都市、不動産バブルと建設ラッシュの都市、2010年に万博を開催する都市、東京よりも近場の大都市などなど。ここ数年、建設業界では、世界で最も活気のある都市のひとつとして成長し続ける中国・上海の話をよく耳にする。
特に仕事の見積りの場面で、鉄鋼関連製品の値上がりについて、「上海をはじめとした中国国内の建設需要が主な理由」とメーカーや各業者さんから聞かされていたため、「機会をみつけて行ってみなければ」と考えるようになっていた。本島南部で避寒桜が満開のころ、旅好きの友人から上海建築ツアーの話を持ちかけられ、少し迷った後に出かけることにした。
それから一週間後の3月初め。那覇空港を午後7時半に出発。現地時間の午後8時15分(時差1時間ゆえ)には上海浦東(ほとう)空港に到着していた。片道約1時間半と安めの運賃に、耳にしていた通り沖縄との近さを感じた。
今回の旅の目的のひとつは、上海の設計事務所で働く県出身の設計士T氏に会うことだった。T氏は現在29歳。もともと沖縄の設計事務所で働いていたのだが、思いあって単独で上海へ渡り、現在は中国人の奥さんと上海で暮らしている。事前にメールで連絡を取り合っていたため、忙しいにもかかわらず、その彼が働く事務所の見学をさせてもらうことができた。
自動車部品工場を増改築したというその建物は、既存の構造や素材感を活かし、現代的に巧みに構成されていた。開発、設計、デザイン、カフェ、ギャラリー、雑貨店などが入居する、上海で注目の複合施設だという。
ひととおり見学した後、夜遅くにもかかわらず、設計事務所の代表の方や若い職員も交えての会食に招待された。平均年齢が30歳前後という事務所の仕事内容、中国の特殊な行政事情、変わりゆく上海の開発事情、そして日本や欧米の諸都市との違いなど、興味深い話をいろいろ聞けた。現地の日系広告代理店で展示ブースの企画・設計に携っている友人のK氏とも合流し、沖縄の開発の現状や最近の建築事情の話に花がさいた。会食後も、K氏と上海の刺激的な日常の話で盛り上がり、それは深夜4時ごろまで続いた。
上海では、運用利回り15%を超える商業物件がザラにあることからも想像できるように、格差の拡がる中国農村部や各地方都市の人々、そして外資系ビジネスマンが、チャンスを求めて上海に集まってきており、人・物・金・情報の巨大な連鎖反応を起こしているようだ。私の世代は、日本の不動産バブルを直接に経験していないだけに、上海の現状から当時の日本社会を想像してしまった。
開発の波によって追い立てられるように破壊されてしまう旧市街と、そこに素早く建設されていく現代的な高層建築との対比は、かつての魔都・上海を思わせるようで魅惑的だ。ただ、そこに住んでいたであろう住人の行方がとても気になるのだが…。
街のあちこちで工事現場の音が聞こえてくる。露店の連なる道路沿いは、その開発の波をしたたかに乗りこなしている人々、また呑み込まれまいとしている人々によって活気づいている。伝わってくる熱気から、どこか那覇の商店街を思い出す。 (T)

 

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