「住まいと方角について」
住まいづくりのなかで、「方角」に関係する事柄はいくつもあります。というよりも、事柄全てが方角と関係していると言っても言い過ぎではないと思います。例えば、人間の歩く向きや目線の先であったり、リビングに飾られた人形の顔の向き、柱や設備機器の配置にいたるまで、更に言えば言葉や時間の前後(新旧?)感覚まで、何らかの方向付けがされていることからも分かると思います。
住宅の設計では、基本的に東西南北(方位)を意識します。例としては、季節や時間帯ごとの日照角度や風向きに応じたリビングや水周りの配置であったり、お隣さんの建物の向きを考慮した間取りや開口の取り方などが挙げられます。どちらも、建物の配置計画の段階からの計画条件のひとつとして設計者は考慮するものです。
また住まいづくりの際によく聞く、「家相による運勢判断」や「台所の火の神」や「2番座の仏壇」といった民間信仰も方角とのかかわりが深く、ほとんどの設計者は、ある程度考慮するか、頭の隅に入れています。
家相については、平面的な東西南北という考えや昔の暮らしがベースとされていますので、空間を立体的に活用する際や、現代の住宅設備の仕様や個性的なライフスタイルを考える際に、なじまないケースが出ることがあります。しかし、住まいで重視することは人によってさまざまですし、家相の考え方を設計に取り入れることもできます。その点からも、このような民間信仰は、幸せな住まい造りのための一つの考えになっています。
話は変わりますが、ものすごく広い大豪邸や、増築に増築を重ね迷路になったような雑居ビルのなかの住居などを除き、普通、住宅のなかでは、方向感覚を失うことはないと思います。しかし一方、柱割りが均等な大型ショッピングセンターの広い立体駐車場などは、迷子にならないよう階やエリアごとに色で印が付けられていたりしますが、その多くは方向感覚がつかみにくいためか、歩いていて不安に感じることがあります。
そこで、暮らしの中での方向感覚について意識してみましょう。朝起きると東側からの日差しに気づき、外の様子を眺める。それから洗面所で顔を洗い、水回りに近い位置にあるダイニングで朝食を済ませ、道路に近い玄関から出て行く。帰宅後は、ひと風呂浴びて、各部屋につながるリビングでテレビを見ながらビール。最後は奥まった静かな寝室で身体を休める――このような普段の生活サイクルは、ほぼ無意識的に間取りや物の配置などと結びつき、そして方角を的確にとらえる要素となっていることが分かると思います。そう考えると、住宅そのものが、人と物との関係を安定させる記憶装置のような機能を持っている気がしてきます。(T)
体感がヒント!(タイムス住宅新聞掲載)