(琉球新報 共に考える住宅デザインVol.141掲載)
「魔除けと住宅」
旅先で、なんとなくコミカルな獅子像をたまにみつけると、思わずシャッターを押してしまう。どの獅子像も、権威のシンボルとして、建物や敷地の出入口付近に鎮座しており、愛嬌はあるがなんとなく不気味な感じを受ける。一方、沖縄の獅子像「シーサー」は、同様に権威のシンボルとなっているものも多いが、旅先で出会うそれと比べると、なぜか親しみやすいものに感じてしまう。
シーサーは動物でいえば獅子(ライオン)にあたり、その見た目からもわかるが、元々の役割についても、やはり魔除け的なものらしい。魔除けに獅子をモチーフとすることは、古代オリエントで王権のシンボルとすることに始まり、その後世界中に伝わっていったという。その大きな流れのひとつがシルクロードを経て中国に至り、さらに沖縄、ではなく琉球に伝わったのは、かの大航海時代(14~15世紀)だといわれている。一般に、沖縄各地にある聖域の入口や、住宅街でみかける守り神としてのシーサーは、現在、魔除けや招福のシンボルとして、そして沖縄観光のマスコットとしても定着している。その形や置かれている場所により、細かく分類されているらしいが、馴染みのあるものとしては、住宅の門柱によくペアで置かれている「門獅子」や、屋根の上の「屋根獅子」といったところだろうか。それぞれに役割が微妙に違うが、沖縄では基本的に住宅の守り神として、そして親しみのある存在として知られているところだと思う。
沖縄の古いつくりの集落の路地を歩いてみると、シーサーのほかにもいろいろな魔除けの役割を持つものをみつけることができる。シーサーとともに、県内でよくみかける代表的なものに、道の突き当たりや角に置かれる「石敢當」、そして門と母屋との間に設ける「ヒンプン」。この他には、ススキの葉を輪状に結び門柱や屋敷の角にさす「ゲーン」、住宅や畜舎の軒裏などにクモ貝やミズ貝を吊り下げる「アクフゲーシ」など。生垣の隙間から漏れてくる生活の音を聞きつつ路地を歩いてそれらに出会うとき、なんとなく魔除けだと感じてくるものがあり、個人的に、なぜか少し緊張してしまう。
一方、交番や街灯などが比較的整備されている新しい街を歩いてみる。たいてい公園なども整備されており、新しくできていく街並みを眺めながらの散歩は悪くない。ただ、前述の集落にある魔除けだとか濃密な近所付合いだとかについて、希薄であることは否定できない。そういったソフトの面も含めて、両者のマチを比べてみると、どちらが安全なマチであるのかは、なんとも言えないところだ。
県内の犯罪件数は一時の右肩上がりから、近年では歯止めがかかっているとは聞く。しかし、防犯フィルムや防犯ライト、その他さまざまな防犯装置が開発され続けてはいるが、全体の8割を占めるという窃盗の件数はなかなか減らないという。もしかしたら、窃盗犯のなかには、どんな防犯装置よりも、魔除けの方を怖がる者がいないとも限らない。防犯装置だけで不安という方は、勉強も兼ねて、魔除けの効用について調べてみるのもよいのかもしれない。(T)