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「ローコスト住宅を考える」

「ローコスト住宅を考える」

(琉球新報 共に考える住宅デザインVol.138掲載)
「ローコスト住宅を考える」

 「どんな住宅に住んでみたい?もしくは住みたくない住宅って?」同世代の集まりの席では、たまにこういう質問をするようにしている。結婚と出産を経て、家族を持ち始めている同世代なだけに、住宅についての悩みや、理想とする暮らし方について思うところを熱心に話してくれ、いつも住宅設計をする上での参考とさせて頂いている。
経済的にもゆとりがでてきたといわれる中で育ってきた30歳前後の団塊Jr世代なだけに、家の好みについてもうるさいのではないかと思いきや、意外にも、「シンプルで箱のような住宅」に住みたいという意見が多い。特に、「家族それぞれの個室は欲しいが、友達を多く招待できるような広い部屋がほしい」というのがポイントのようで、具体的には「天井の高い吹抜け」、「デッキテラスのある庭」、「モダンなシステムキッチン」の中で暮らす家族のイメージを大事にしている。「収納は?」と聞くと、あるにこしたことはないが物はあまり置きたくないので、大きな倉庫ひとつあればいいという意見もある。ただ、子供が大きくなって、物があふれかえるという経験をしていない世代だけに、この辺はまだ不確定なところだろう。
ただ、住宅という大きな買い物なだけに、予算面での心配を、自分も含め皆一様に持っている。最近の調査では、新築をする場合平均で3000万円はかかるという。金利の低いこのご時世でも相当な額であり、25年ローンで借入れをしたとしても、自己資金を豊富に持つか、よほどの高収入でもないかぎり難しい。そうなると、せめてアパートなどの毎月家賃と同じ支払額のローンで買える住宅はないだろうか、と必然的に考えてしまう。しかし、もちろん大金はたいて買うわけであるから、自分の生活に合うような、あるいは合わせられるような住宅であってほしい。
というような自分も含めた同世代のニーズに答えるためにも、最近、シンプルな箱状の住宅を企画してみた。企画の際には、コストパフォーマンスに強く、自身も「SI(スケルトン・インフィル)住宅」の発想から、「シンプルな四角い家」(先週の同紙)を計画しているというベテラン建築家の意見をとりいれつつ、構造家や施工関係者にも協力してもらった。述べ床25坪の2階建の住宅である。基本プランは、やはり敷地条件に合わせた長方形の箱を2層にした至ってシンプルなもので、1階には生活に必要最低限の設備がコンパクトにまとめられている。ただ、必要に応じて布カーテンや木製可動間仕切りにより個室化することは可能としてはいるが、これら細かい点は、住み手と共に、ゆっくりと話し合いながら考えていけるようなスローな住宅つくりを心掛けたい。
最近よく住宅雑誌などでもみかける、こういったシンプルな箱の住宅は、暮らし方はもちろん、間取りや収納も、生活者の発想如何にかかっているので、悪くいえば「面倒くさい」つくりといえるのかもしれない。しかし、建てる前から完成してしまっているような住宅にはない楽しさがある。ちょうど、メニュー通りに用意されるフルコース料理とは違った、自分でつくる楽しみのある「焼肉」や「お好み焼き」の楽しさがある。もちろん、お店の側としても、食する側が調理することで人件費や材料費を浮かすことができるため、価格も低めに設定されてくるわけであり、嬉しく楽しい。最近人気のDIYも、その延長線上にあるのだろう。そういう持続する楽しさから、ゆったりとした豊かな空間が育まれてくるのかもしれない。
ただし、日々の生活に潤いを持たせるためにも、内外部共にモダンな(洗練された)印象であることも目指している。建築や家具デザインの世界には「機能美」という言葉があるが、生活者の視点からローコストでシンプルなつくり目指していくことで、機能美にも繋がるような住宅つくりの方法もひとつの考えなのかもしれない。(T)

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