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「紫微鑾駕のある家」

「紫微鑾駕のある家」

「紫微鑾駕(しびらんか)のある家」

 ちょうど1年前、弟と一緒に築約35年の木造セメント瓦家を、事務所兼自宅へと自ら改修工事をする機会を得た。10年近くも空き家であったらしく、壁も天井も剥がれ落ち、近所の猫達の溜まり場となっており、とても改修甲斐のある家であった。
工事の半ば、ほとんど腐りかけていた天井部分を剥がしていたところ、妙な文字の書かれた杉板が、屋根裏の棟木部分に釘で打ち付けられているのをみつけた。明かりを当ててよくみてみると、誰かの落書なのか、マジックのようなもので黒く「紫微鑾駕」と書かれてあった。
「たぶん、シビランカーと読み、沖縄の昔の家では、棟上げ式の際に家の護符として棟木に設置するということを聞いたことがあるよ」と、弟は現場の大工さんに聞いて知っていたようだ。しかし、自分には全く初めて聞く言葉であった。どうも気になったので、いろいろ調べてみたところ、「中国の偉い坊さんの名前」、「火を食う女」、「北極星にまつわる護符」など、いろいろな説があるが、そのどれも家やその住人の除災招福を願うものであるらしい。同じ時期に中国から伝わったとされる「石敢當」や「シーサー」に比べると、普段は屋根裏に隠れているためか、知名度のほうはそれほど高くない。知人のベテラン大工さんに聞いてみたところ、現在では公共の大きな建物の工事や、離島での新築工事などの際にたまに設置されるが、木造の家が大半を占めていた頃の時代と比べると、その数はだいぶ減っていると話していた。
数が減ってきたのは、単に人々の信心深さが薄れてきたというよりは、沖縄の家の大半が鉄筋コンクリート造りになっていることにより、台風などによる災害の心配が少なくなったこととも関係しているだろう。また、木造に比べて全焼することが少なくなってきたことにより、火事を避ける効果が強いといわれる紫微鑾駕の神様が活躍(?)する場面が減ってきたこともあるのかもしれない。
ただ、家主が不在の10年間を猫達とともにこの家を守ってくださっていた紫微鑾駕の神様には、念のためと言っちゃおかしいが、工事の途中ではあったが自分らなりに感謝の気持ちを込めて御願(うがん)を行った。
その後、事務所兼自宅の改修工事は、仕事をしながらの作業ということもあり、工事期間は6ヶ月と長くかかったのだが、なんとか怪我もせず無事に完成させることができた。現在この家は、事務所を別の場所へ移したこともあり、弟専用の自宅として快適な日常生活の場となっている。(T)

 

新報リビングニュース週間かふう「うちなあ点描」