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「自然を感じるたたずまい」

「自然を感じるたたずまい」

(琉球新報 共に考える住宅デザイン2005/10/13掲載 )
「自然を感じるたたずまい~パッシブ住宅など~」

 十月八日の寒露(かんろ)を経て、沖縄は本格的な秋に入ったようだ。日中はまだまだ夏の暑さであるが、朝夕は涼しくなり過ごしやすくなってきた。
そんな夕暮れ時のこと。南国的時雨とでもいえるだろうか、車の運転中、なんの前触れもなく突然雨が降り始めた。車中からみえる道路沿いのバス停や歩道などでは、傘を用意していなかった人達が、屋根付きベンチの下、街路樹の下、店舗軒下と、夕暮れ時の雨やどりの光景が続いていた。濡れないようにお互いの距離を縮めているその光景は、学校帰りの学生、仕事を終えた会社員、買い物帰りの主婦らと、さまざまであり心が和むものであった。また、強まってくる雨の中、普段はバス停で顔を見合す程度の人達が、突然の雨により、「急に降ってきたね~」などと会話を交わしているのではないかと、空想も弾んでしまった。
こういう自然現象がもたらす一期一会的な出会いの場というのは、思わぬ人と出会ったり、また往々に風情もあるためか記憶にも残りやすい。住宅でも、季節を感じさせる雨水がしたたり落ちる軒下などは、昔から俳句の名作が生まれる風情ある場として知られている。ただ近年の住宅の軒先は、排水などの問題から、普通は樋が設けられており、雨水は樋の中を地上や下水に向かって勢いよく一直線に流れていくため、そういう意味で昔と比べると、普段の生活の中で自然の移り変わりを感じる機会が減っているように感じる。それもあってか、建主や設計者の中には、少々排水の面でデメリットがあるとしても、軒先からしたたり落ちる雫や雨音を楽しみたいという人もいて、敢えて屋根に樋を設けない場合もあるそうな。
ところで、建築に興味を持つ者にとっては有名な、「住吉の長屋」という話題作が大阪市にある。四つの部屋に囲まれた中庭を持つこの住宅は、雨の日にはその中庭を介して傘をさしていくか或いは雨が止むのを待つかでもしなければ、それぞれの部屋へ濡れずに行き来することができないという。しかし、それ故に都市生活の中でも自然の移り変わりを強烈に感じることができるということで、住人が生活するには不便なのかもしれないが、逆転の発想が面白いということで、建設から三十年近くたった今でも、建築関係者のなかでは、たまに話題に上る。
「パッシブ住宅」という言葉がある。特別な動力機器を設けないで、建築設計の工夫により、気温変化、風の流れ、太陽熱、地面や躯体にたまった熱といった、いわゆる「自然エネルギー」を有効活用することを目指した住宅という意味であり、近年注目されている。夏場は冷房の利いている部屋が、冬場は暖房の利いている部屋が、とりあえず快適ではあるのだが、本当の意味での贅沢な住宅とは、自然の移り変わりを感じとれるパッシブ住宅や「住吉の長屋」のようものなのかもしれない。(T)