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「角出し住宅」

「角出し住宅」

「角出し住宅」

 沖縄の都市景観をかたち作っているもののひとつに、戦後急速に普及してきたという「角出し(つのだし)住宅」と呼ばれるものがある。高さ1メートルにも満たない1階支柱の延長である「つの」のようなものが、屋上に何本も突出た鉄筋コンクリート造の1、2建て住宅のことを主にそう言う。特に土地の狭さなどから、垂直方向しか増築の余地のない住宅密集地などでは、現在でもすぐに出会うことができる。
角出しの技術的な理由としては、将来の上階部分の増築工事に備え、柱を継ぎ足す部分の鉄筋の防錆のためといったところだと思うが、なんとなく中途半端な格好の住宅ではある。たまにその「つの」の上にコンクリートの土台を設け、そこに大きな水タンクなどが持ち上げられるように載っていたりすると、何故か可愛らしく感じてしまい、なんとなく応援したくなる。
この少々不可思議な角出し住宅。断定はできないが、他府県にはほとんどみられない沖縄独特のものであり、県外からやって来る人に「あれは何でしょう」と、よく質問される。県内在住者のひとりとして一応の説明を試みるが、屋上水タンクとともに、その理由を話してもピンとこないのは、私と同じようだ。
現在、その角出し住宅が混在しつつ無造作に拡がっている住宅密集地を少し高い位置から眺め回してみると、戦後、諸々の米軍施設の建設を通した本格的な鉄筋コンクリート造技術の広まりが、台風などの暴風に強いということや、建設用木材のように輸入に頼ることなく地元の砂や砂利が使えるという沖縄の地域的な理由もあってか、自前の文化による意味づけの速度をはるかに超える勢いであったのだろうと想像できる。
ところで、ちょうど現在、事務所内で進めている物件のひとつに、角出し平屋住宅の増築工事がある。構造に関する法規的な観点から、施主が約30年前の新築当初に思い描いていた通りの二階建て鉄筋コンクリート造とすることは叶わず、既存柱に補強を施したり、2階部分は重量の軽い鉄骨造に変更せざるを得なくなったりと、新築物件に比べ苦労が多い。そのかわり、竣工後の達成感はひとしおだとは思うが。
戦後急速に増え続けた角出し住宅は、建て増しのメリットが期待ほどでもなかったのか、復帰の頃を境に徐々に建設されなくなってきたようで、新築物件では最近ほとんどみかけない。現在の建設当初の目的を達せないままに残っている角出し部分は、復帰前の米軍統治時代に県民が抱いた希望の残滓のようなものと夢想することもできると誰かが言っていたことを思い出す。
復帰後に生まれ育った私にとっての角出し住宅とは、過去や未来のお話などお構いなしに子供の頃からの身近な景色の一部であるわけだが、何故か可愛げのある角出し部分をじぃっとみていると、先輩方が経験してきた時代の記憶を伝えてくれるスイッチのようにも思えてくる。(T)

 

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