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「設計士の住まい」

「設計士の住まい」

(琉球新報 共に考える住宅デザインVol.152掲載)
「設計士の住まい」

 設計を業としている者が自宅を設計すると、どういう建物になるのだろう。住宅を考えている人にとっては、興味深いことだと思う。私も、この仕事についた頃から先輩方のご自宅を拝見させていただく機会が多々あり、やはりその多くは、住み良さそうで見ごたえのある住宅空間に仕上がっていた。よく雑誌などで、「建築家の自邸を拝見」というような写真付きの記事をみつけるが、やはり建築家にとって長年蓄えてきたアイディアを存分に試せるためか、大体の場合、個性的でいて居心地のよさそうな住宅となっている。ただ、そのなかには、普段の仕事のなかでは施主の強い希望がない限りありえないような、実験的というか野心的なデザインの住宅もあり、これはこれでいろいろ勉強になるし、楽しませても頂いている。
最近、2人の設計関係の友人が、自宅を設計して実際に工事を進めているというので、自身の勉強も兼ねて、工事途中にも関わらず工事現場にお邪魔させてもらった。
ひとりは、住宅は簡素にしておいて間取りなどは生活の変化に応じて自分なりの方法で変えていけばいいという発想の持ち主。そういうことで工事は、住むために必要最低限な部分だけを建設会社に依頼したとのこと。そして床張りや照明設置などの比較的工事可能な部分については、考えたアイディアを基に自ら工事を進めていくというやり方。私見では、コストを抑えた機能的でオリジナルなものとして完成しそうだ。ただ本人曰く、プロの職人ではないし、またライフワークでもある有機農業をしながら少しずつ進めていくため、時間と労力がかかるという。一応の竣工式が終わり、それから3ヶ月たった現在でも、自ら工事を少しずつ続けているため、いつになったら終わるかなぁと、なぜか嬉しそうに嘆いている。
もうひとりの友人は、こちらもコストを抑えるのは前提であるが、いいデザインやいい製品は妥協せずに使いたいというタイプ。それもあってか住宅の内外部ともに洗練された印象を受ける。特に設備器機については、よく吟味されたものが随所に見られる。ただやはり、当初の見積り額は結構なものであったらしく、なかでも照明器機については、それ相当のものであったという。それで、照明器機については全てインターネットで直接購入し、「施主支給品」とすることで、だいぶコストを抑えることができたとのこと。他にも、様々なコストマネジメントの工夫を聞くことができたが、ここでは割愛する。
住宅を依頼する人それぞれに個性があるように、設計士にもそれぞれに個性がある。設計士に住宅の相談や依頼をする際には、その設計士の住宅に対する考え方を具体的に知るためにも、その自宅や仕事場を観察してみるといいかもしれない。(T)

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